会長あいさつ

変わる力 ー持続可能な医療介護提供体制の確立を目指してー

                                                           

 新型コロナウイルス感染症が感染症法上2類相当から5類となり、2
ヶ月が過ぎようとしています。今までは先生方のご尽力により、比較的
落ち着いた感染状況となっていましたが、全国的に感染者数は増加傾向
にあり、第9波に入ったのではとの見解が関係各所から示されるように
なりました。特に沖縄では医療逼迫が激しく、既に第8波のピーク時の
入院者数と同じレベルとなっているようです。今後、我々の地域でも同
様の事態が起こってくる可能性があり、先生方には今後ともなお一層の
お力添えをよろしくお願いいたします。
さて、この3年半のコロナ禍を経験し世の中は大きく変わりました。
コロナによる直接的な影響だけでなく、少子高齢化や人口減少に伴う働
き手不足、エネルギー価格の高騰、円安に伴う原材料価格高騰による物
価上昇等、医療や福祉を取り巻く環境も厳しさを増しています。また来
年4月からは、働き方改革が本格化し地域における非常勤医師の確保も
大きな不安材料です。
しかし一方では、WEB 会議システムの普及、オンライン診療に関わ
る通信機器の進歩、医療や介護へのロボットの導入、色々と問題が指摘
されているマイナンバーカードの健康保険証としての利用、ChatGPT
に代表される生成 AI の開発など、将来の医療や福祉に大きな影響を与
え得るイノベーションも見られています。
現在、各都道府県では来年度より始まる第8次医療計画を策定中であ
り、その中の地域医療構想では、当初の2025年ではなく2040年を想定し
て計画を立てることとなります。いわゆる2025年問題では、第一次ベビー
ブーム(1947年~1949年生まれ)の団塊の世代が後期高齢者になること
による、高齢者人口の急激な増加が問題となりました。2040年問題では、
高齢者人口がピークを迎え、同時に高齢者を支える生産年齢人口が、今
より約1,400万人減少することが問題とされています。
壱岐市でも、人口が約24,700人から2040年には約16,500人に減少する
ことが予測されています。また高齢化率は、現在約40%(都市部は約
30%)ですが、2045年には約45%まで上昇することが予測されています。
この高齢化率の上昇は、高齢者人口自体は全国よりも早く2025年頃を
ピークにやや減少に転じるのですが、それ以上に生産年齢人口が減少す
るために起こります。おそらく壱岐医療圏では2040年に向けて医療や介
護の需要は緩やかな減少を示しますが、それ以上にスタッフの確保が難
しくなることによる、医療機関や高齢者施設の稼働率の低下やダウンサ
イジングが起こり、供給力の低下が予想されます。その結果、最悪のケー

スでは医療や介護の需供ギャップが生じ、医療介護難民が生じる可能性も否
定できません。
この状態を改善するには、新たな生産年齢人口の確保が必要ですが、国が
本格的な移民の受け入れなど、大きな政策転換をしない限り急に改善するこ
とはできません。となると2040年までの時間を使って各医療機関や高齢者施
設は、定年の延長や定年後の再雇用などを積極的に行い労働力の確保に努め
つつ、さまざまなイノベーションを活用して仕事の効率化をはかりながら、
適正なダウンサイジングを行う必要があります。
因みに、地域医療構想に沿ってダウンサイジングを行う場合は、地域医療
介護総合確保基金の補助を受ける事ができる可能性があります。
しかしダウンサイジングを行う場合、一番の障壁となるのは経営者の心理
かもしれません。長期的な戦略を考える上で企業の成長を是とする経営者に
とって、市場規模の縮小を前提にするのは、なかなか受け入れ難いものがあ
ります。
但しダウンサイジングを単なる縮小ではなく、利用者へのサービスの向上
と収益性向上を目指すためのコンパクト化と捉えれば、少しは受け入れやす
くなるのではないでしょうか。
言うまでもなく、医療機関や高齢者施設は社会的インフラの一つであり、
通常の企業とは異なります。その為、事業継続についての社会的責任があり、
社会の変化に対応しながらも、持続可能な医療提供体制や介護提供体制を確
立することが求められます。
前述したように、新型コロナウイルス感染症の取り扱いも変わり、本格的
な「with コロナ」が始まりました。来年度からは働き方改革も本格化し、
第8次の医療計画もスタートします。医療や福祉を取り巻く環境は大きく変
化していき、これからの数年間は、一つの大きな転換期に入っていくのだと
感じています。
今後、我々に求められるのは、時代の変化に対する柔軟さであり「変わる
力」だと思います。
医療構想調整会議等を通じて、将来の壱岐医療圏の姿について情報を共有
し、地域における持続可能な医療介護提供体制の確立についての有意義な意
見交換ができればと思っています。
本年度が我々医師会にとって、大きな一歩を踏み出すきっかけになれるこ
とを望んでいます。

                                   令和5年8月吉日
                                   壱岐医師会 会長
                                      品川 敦彦
 

 社団法人 壱岐医師会 会長 品川 敦彦